神奈川県横浜市・坂本さん

2000年4月築

これから、私たち夫婦二人が楽しむための家をつくりました。

設計ファイル

万が一、車椅子生活となっても対応できる家づくり。

写真:神奈川県横浜市・坂本邸
写真:自然と共に…

木造平屋建ての坂本さんのOMソーラーの家は、万が一車椅子の生活になった場合も対応できるようにと考えられています。床は段差のないバリアフリーに。室内の出入り口はすべて車椅子が通ることのできる幅とし、扉はレールを上部にした吊り下げ式の引き戸に。勝手口以外に開き戸はありません。トイレも風呂場も車椅子のまま使用ができ、洗面所と台所のシンクの下もまた、オープンにして、車椅子でも作業ができるようになっています。

気管支の弱い奥様のために、掃除がしやすいよう、また家具の隅などに埃が入り込まないよう、室内にはできるだけ家具は置かず、シンプルに暮らすことを旨としています。

建物概要

  • 木造平屋建て
  • 敷地面積:427.19m2
  • 延床面積:81.98m2


神奈川県横浜市・坂本さんの家平面図(クリックで拡大:48KB)

写真:天窓 写真:障子越しの光
北側に設けられた寝室には天窓が設けられ、昼は自然光を、
夜は照明の明かりを、障子越しの柔らかな光に変えて部屋を灯す。

写真:オープンな室内空間 写真:可動式仕切り戸
オープンな室内空間において、来客の際などの目隠しとなるよう設けられた、
居間と台所との間の可動式仕切り戸。

家づくりと暮らし

介護の仕事を通して思う実感を、家づくりに活かして。

横浜市にお住まいの坂本さんは、40年にわたるサラリーマン生活のおよそ半分を、ご家族とともに長野やアメリカ・ロサンゼルスなど、お仕事の赴任先で暮らしてきました。そして、定年まで2年を残し58歳で退職した 坂本さんは、東京で鍼灸の資格を取得。60歳になった1991年に、やっと自宅のある横浜に戻ってきました。

結婚して最初に家を持った頃はほとんどが畑だったという自宅周辺も、新幹線の新横浜駅ができてからはすっかり様変わりました。「戻った時はまるで浦島太郎みたいでしたよ」と笑う 坂本さん。留守の間貸家にしていた家も、時間の経過とともに傷んできてしまったことから、夫婦二人のこれからの生活を楽しむために、古い家を壊して新たに家を建てることにしました。

お二人の“終の住処”となる家は、奥様が気管支のアレルギーを抱えていたため、できるだけ自然の素材を使った家をと考えました。そんな坂本さんの元に、長野でOMの家を建てた友人から、「雪の多い長野でもずいぶん暖かいよ」という話が届きます。さらに近くの工務店のOMの広告が、 奥様の目にとまります。こうして“身体にやさしい家を”と求めていた坂本さんご夫妻に、OMについての情報が集まり始めました。

写真:坂本邸外観 緑豊かな坂本さんの家。夏は葉を伸ばして日差しを遮り、冬は落葉して光を届けてくれる。

家づくりを考えていたのは、坂本さんご夫妻だけではありませんでした。坂本さんと同居していた娘さんご家族。独立して自分たちの家を建てようと、土地探しから始めていたのです。

「妻と子どもがアトピーだったので、自然素材の家をと考えていました。最近は大手住宅メーカーでも自然素材を謳っていますが、実際に自分たちの思いの通りに家を建てようとすると、とても高価なものになる。それなら、と東京の建築家に設計を頼もうと検討していたところへ、母から工務店の広告を見せてもらったんです。自然素材を使っているし、なにより地元だから、これからもずっと面倒見てもらえるかなと思いお願いすることにしました」と言うのは、 娘さんのご主人、成戸さん。

「自分たちの家を建てるつもりで持っていたOMのパンフレットなのに、娘に先取りされてしまいました」と笑う奥様のことばどおり、成戸さんご家族のOMソーラーの家が、坂本さんご夫妻より一足早く完成します。

一方、坂本さんの方はといえば、借家人に円満に退去してもらうための時間が必要だったという事情もあって、遅れること一年、2000年の4月に完成しました。「贅沢な材料でなくてもいいから、木をたくさん使ってください」という 奥様の希望どおり、二年経った今でも木の香しさ広がる家。「太陽っていうのは、たいした力ですね」とご主人が感心することしきりの、ほんわかと太陽が暖めてくれるOMソーラーの家です。

写真:自然素材に囲まれた空間
自然の素材に囲まれた気持ちのいい内部空間。
娘さんご家族の家は、坂本さんの家から歩いて5分ほどのところ。
「孫たちがお稽古帰り、おやつを食べに立ち寄るんですよ」。

自然は自然のままに、それがいちばん美しい。

「我々は高齢者になってきますから、できるだけ平屋建てのシンプルなつくりにしました」という坂本さんは、実は3年ほど前にケアマネージャーの資格を取得。現在、介護の仕事をされ、この仕事で得た貴重な経験を、家づくりに活かされています。

「例えば、家で倒れて車椅子生活になった場合、車椅子を動かすために柱を抜かなければならないこともある。二階で寝たきりになった時なども、介護のために家の中を改造しなければならないケースが出てきます。そうしたことを考えると、自分たちの生活のしやすさを考えるのと同時に、介護する側の働きやすさということも考慮に入れなければならないと思うのです。この家はそうしたことを考えながら、設計をお願いしました」

バリアフリーであることはもちろん、出入り口は車椅子が通れる幅に、また転回もできる、風呂場もトイレも車椅子で出入りできる、さらに万が一寝たきりになった場合でも、プライベートゾーンのベッドからトイレ・洗面・浴槽に移動ができるリフターの設置が可能なよう設計がなされています。このリフターによって、本人も、また、介護にあたる人も、楽に体の移動ができるのです。

写真:玄関 写真:リフターを設置することが可能
【左】玄関上がり口の段差は最小限に。現時点では、履物の脱ぎ履きに便利なようベンチを設置している。
【右】寝室中央に設けられた収納を取り外せば、リフターを設置することが可能に。万が一寝たきりになった場合でも、奥の部屋からもリフターを使って、ベッドからトイレ・洗面・浴槽へと移動できるよう考えられている。

「介護保険料を払っているのだから介護してもらうのは当たり前という考えではいけないと思うのです。自分で出来る事はまず自分でやる。そして足りないところを手伝ってもらう、そういう考えでないと、いけないのではないでしょうか」
介護の仕事に携わりながら、様々な高齢者の姿を目の当たりにしてきた坂本さんは、仕事を通してそう実感しているのだといいます。

最近ではほとんど毎日のように介護の仕事に出かけるという坂本さん。家に帰りほっと一息ついて眺めるのは、奥様の長年の夢が叶って実現した庭です。木々のほとんどは落葉樹、常緑樹はあえて植えなかったという 奥様は、この庭で、木々や草花を手塩にかけて育てていらっしゃいます。

「冬は殺風景だから少し彩りを加えたら?」という坂本さんに、「冬は冬枯れを楽しみたいの」と奥様。冬から暖かな春になれば、徐々に緑が濃さを増し、次第に色とりどりの花が咲き始める、それが自然の移ろいなのだから、それでいい、と 奥様は考えます。人間の都合によって自然を排除し、人工的に強制的に造り上げられた環境の危うさを、自身の痛みとして感じてきた奥様。“自然は自然のままに、それがいちばん美しいのだ”と、今、心からそう思うのです。

写真:洗面台 写真:お風呂場 写真:トイレ
【左】洗面の流し台の下は、車椅子でも使用できるようオープンに。
【中】車椅子が使用できることはもちろん、浴槽の高さなども、介護する側が作業をしやすいようにとの配慮がなされた浴室。
【右】トイレの扉は吊り下げ式の3枚引き戸。車椅子でも使用できる広さが確保されている。