シンポジウム「循環型・低炭素社会における木造住宅・建築の可能性」

パネルディスカッションの様子。
2011年3月10日(木)、東京都千代田区(ベルサール九段)にてOMソーラー(株)主催、日経アーキテクチュア、日経ホームビルダー、日経エコロジー共催により、「循環型・低炭素社会における木造住宅・建築の可能性」と題したシンポジウムを開催しました。このシンポジウムは、国土交通省の補助事業「木のまち・木のいえ整備促進事業」の一環として開催したもので、木造建築において新しい価値観に基づく取り組み、地球環境を配慮した取り組みを進める建築家や研究者を招き、その事例などの中から木造住宅の重要性や可能性を探っていく、というものです。当日の模様を、ご紹介します。
国産材活用は、難しいから面白い

シンポジウム開始にともない、弊社代表・飯田より、挨拶。
バラエティに富んだ出演者の顔ぶれからか、あるいはテーマの関心の高さからか、当日は、400人を収容するホールは通路に椅子を並べなくてはならないほどの参加者で埋まりました。主催者を代表して、まずはOMソーラー株式会社より飯田が、また、共催者を代表して日経アーキテクチュア編集長の真部氏が挨拶を述べ、シンポジウムが始まりました。

コーディネーター役を務めた野沢 正光 氏。
シンポジウムの冒頭では、出演者を代表して野沢正光氏より「パッシブデザインについてこれまでよりも間口を広げて多くの皆さんと一緒に考える場が欲しいと思っていた。そんなところに国交省からも手が差し伸べられた」「モダニズム建築に木造で取り組んでいるのは日本だけ。日本には分厚い木造の歴史があり、循環型・低炭素型社会を構築する上でバイオマス資源である木造とパッシブデザインは大変相性がいい。パッシブを基盤としてアクティブを装備していく、様々な要素技術をあらためて並べ直し、整理していく機会にしたい」など、本シンポジウム、ならびにパッシブデザインコンペを含めた開催趣旨、開催に至った経緯などについて説明が行われました。

林業家の田岡 秀昭 氏。
続いて、建築家による取り組み事例報告に先立ち、「特別講演1」として「町に森をつくる」と題して高知県の林業家・田岡秀昭氏よりお話がありました。田岡氏は「日本の木が使われないことで、日本の山が“緑の砂漠”状態にある」「山に人手が入ることで地域経済も活性化していく」など、間伐された美しい森の写真を紹介しながら、人工林をきちんと管理していくことの重要性をあらためて説きました。また、具体的にスギ材の強度について「元玉(※立木だった時に、地面に近かったほうから採られた丸太。根本のほうから元玉(もとだま)、二番玉(にばんたま)、三番玉(さんばんたま)…と呼ばれる)よりもニ番玉、三番玉のほうが実は強度が高い」「(二番玉、三番玉ならば)同じヤング(木材の強度)であればベイマツに比べて大きな強度を有している」「スギの評価が低かったのは、計測して出荷していなかったからで、きちんと計測すれば無駄なく森の資源を使うことができる」「国産材を活用することで、山と町の両方でCO2の固着効果が生まれる」などと述べ、国産材利用について新たな認識を参加者に与えました。

難波 和彦 氏。
いよいよ建築家による国産材を活用した建築事例の報告に入っていきました。最初の報告は、建築家であり東京大学名誉教授である難波和彦氏による「ココラボモデル環境共生住宅」の取り組みについてでした。“ココラボモデル”とはデベロッパーと東京大学による産学が一体となった環境共生住宅づくりのプロジェクトで、2008年から2010年に掛けて取り組まれました。太陽高度に対応した軒の出、落葉樹の活用などのパッシブ手法のほかにも、アクアレイヤーという蓄熱体の利用、袖壁利用によるウィンドキャッチ効果、屋根天窓からの負圧による室内空気誘引効果など、CFD(通風シミュレーション)を駆使した通風効果を検証するなど、他の環境系の学部とも協同して取り組まれました。また、これらは単独の建物で計画されたわけではなく、隣合う4つ(実際に建築されたのは2棟)の敷地を一体として計画されたプランであることもパッシブの効果という点で大きなポイントとなっています。難波氏は“箱の家シリーズ”など、これまで国産無垢材利用にはあまり縁がなかった建築家ですが、その難波氏が国産無垢材を使ったココラボモデルに取り組んだことは、それ自体大きな一歩だったのではないでしょうか。ご本人も「一番コントロールが難しい国産のスギ材を使うことで、様々な問題の解決に繋がると感じている。そして何よりそのほうが面白い」と語り、国産材利用の意義や可能性を示唆しました。

三澤 文子 氏。
取り組み事例報告の二番手は長年、国産無垢材活用に取り組んできた建築家の三澤文子氏です。三澤氏からは昨年秋に完成した長野県箕輪町の「北沢建築工場・モデルハウス」を中心に、「ご自宅」やご自身が教鞭を執っていた「岐阜県立森林文化アカデミー(設計は北河原温建築都市研究所)」、「自事務所」を紹介しつつ、国産材活用の事例を報告しました。メインの「北沢建築工場」は、一般に流通している製材品(長野県産無垢材)のみで、尚且つ大工の手刻み加工により18mスパンの柱のない空間を作るというもので、そのポイントになっているのが後で報告する稲山氏が考案された「樹状トラス構造」でした。無数の細い材料が文字通り「枝状に構造を支える」姿は、有機的でエレガントな空間を生み出し、構造的な合理性が美しさに繋がっていることが伺えます。これらの建築が決して特別なことではなく、国産無垢材の流通品、地域工務店の大工による手加工により実現している点が、この取り組みの意義深さに繋がっています。「国産無垢材を使うことは面白い。やめられない!」という三澤氏のコメントが印象的でした。

中村 好文 氏。
事例報告三番手は、「パッシブな暮らし」を自ら楽しまれている建築家・中村好文氏による「働く小屋」の事例紹介です。自らの事務所名から取った「LEMMHUT(レムハット)」と呼ばれる小屋は、まさにローテク、アイデアの集大成であり、「不便」を単なる不便にしておかない面白さ、楽しさが満ちているものでした。手漕ぎポンプ揚水による雨水利用、七輪コンロ、重力式半自動開閉収納扉、6連建具、ベッドに早変わりするソファなど、アイデアは数え上げたらキリがないほどです。特に、雨水を集水するしくみを説明する時の氏の楽しそうな目に、この小屋の魅力が表れているように感じました。「これまでは家に繋がれた“管”や“線”(電気、ガス、水道、電話、LANなど)の数で文明の度合いが語られてきた。これからは繋がれたこれらの管や線を一つ一つ断ち切っていくことが文明の尺度になるのではないか(中村氏)」この小屋はそれを具現化したものであり、取り入れられた様々なローテク、アイデアは人間の感覚に直感的に作用する心地良さを含んでおり、感性を刺激するものです。パッシブとアクティブの関係性について深く考えさせられる事例報告だったように感じます。

東京大学の清家 剛 氏。
建築家による事例報告は以上で、最後の報告はCASBEEの制度構築に尽力された東京大学の清家剛氏より「木造住宅の環境性能評価」についてお話をいただきました。清家氏はここまで報告された木造住宅を評価する立場として登壇されたわけですが、まず評価の前に「住まい方こそ重要」と語り、そういう意味で「LEMMHUT」の暮らしは素晴らしいと述べられました。「評価というのは“住まい方”“規制”に続く第三番目の位置付けに過ぎず、そもそも評価というのは“モノサシ”であり、モノサシで測れる範囲には限度がある。LEMMHUTのような家はモノサシで測れない領域の家であり、むしろ、測れない範囲のほうが広いのが実情」と語りました。私たちはともすると「評価制度が全て」と考えてしまうところがあります。まさに評価制度構築に取り組んでいる清家氏自身から「モノサシに過ぎない」という言葉が出たことは、私たちに“評価制度に正しく向き合う”ことをあらためて教えてくれたように感じました。

多彩な顔ぶれの面々がパネラーとして登場。
後半のパネルディスカッションは、ここまでご報告いただいた方々に稲山氏が合流する形で開催されました。コーディネーター役を務める野沢氏からも、パネルディスカッションに先立って、「環境省エコハウスモデル」「木造ドミノ」「いわむらかずお絵本の丘美術館」「愛農学園農業高校減築改修工事」など、ご自身の取り組みの紹介が行われました。そして、パネルディスカッションでは各パネラーの事例報告に基づいた「国の方針や施策」といった背景の話やその延長にある話が展開されたほか、トレーサビリティ等を含む「国産木材の適正な評価」「パッシブと生活者の視点」「国産材活用、普及に関する現実的な問題点」「ヨーロッパなど海外の木材活用の実情」「国産材の集合住宅利用」など、様々な角度から国産材活用の可能性について議論が行われました。特に、中村氏の事例を基にした難波氏の解釈からは「技術の成熟化と遊びの感覚、ライフスタイルの関係」など、国産材活用から派生するソフト的な価値感にまで議論が及び、単なる木材のハードとしての価値、あるいは循環型社会の形成といった大義的な意味合いだけではない、より身近な感覚としての価値について言及され、大変興味深い議論が行われました。

東京大学の稲山 正弘 氏。
パネルディスカッション終了後には今回最後の演題として「国産材活用と木質構造」と題した稲山氏からの報告が行われました。「北沢建築工場」を中心に「岐阜県立森林文化アカデミー」「宮崎県木材利用技術センター」「いわむらかずお絵本の丘美術館」「YoYa邸」「東京大学弥生講堂アネックス」など、ご自身が取り組まれてきた建築事例を紹介しつつ、大規模建築物において木造がRC造やS造と比べコスト高になっている理由やその解決策の提案などが行われました。「戸建て住宅では木造が最も安価である。それは規格流通品の活用などオープンな生産システムが普及しているため。ほとんどの大規模木造建築は構造体や接合金物などが特注品なのが実情」さらに「地場産材活用となると伐り旬が合わないなど、現状では供給体制が整っていない」と述べられ、実際に報告された事例の多くは流通品を様々に工夫して活用されており(しかも新たなデザイン性を同時に表現している)、多くの参加者が現実味のある提案として受け止められたように感じます。

当日は400人近くの来場をいただき、会場は満席となった。
シンポジウム全体を通して、国産材活用の意義や意味、問題点や付加価値などがあらためて共有でき、さらに国産材活用の可能性を広げるいくつかの新たな知見が示されたものと思います。国産材が普及していくためには、まずは住宅や建築を供給する側が「国産材を使いたい」という気持ちにならなければなりません。そういう意味で今回のシンポジウムには国産材普及の担い手となる多くの参加者が訪れたことに大きな意味があったように思います。シンポジウムに参加された皆さんが正に国産材活用の推進役として各地で活動されることを願ってやみません。
本シンポジウムは、国土交通省「木造住宅・木造建築物等の整備促進に関する調査・普及・技術基盤強化」の補助事業として開催したものです。低炭素化社会、循環型社会の構築をふまえて、木造住宅、木造建築の重要性、可能性を考え、学び、多くの方と共有することで木造住宅、木造建築の普及促進を図ることを目的としています。今回、補助事業の一環として成果報告書をまとめていますので、あわせてご紹介します。












